バーコードやRFIDなど自動認識ソリューションで知られるサトーグループ(以下サトー)。創業80年を超える老舗企業が、今、サーキュラーエコノミー市場に本格参入しています。自社製品のリサイクルだけでなく、産業廃棄物のトレーサビリティシステムの開発など、循環型社会の実現に向けた新たな取り組みを始めています。なぜ今、サーキュラーエコノミーなのか。その背景と具体的な施策について、同社の新市場戦略部 新市場参入PJグループ長(当時) 平田和也氏にお話を伺いました。

80年の歴史を持つテクノロジー企業、グローバル展開で成長を加速
—まずは御社の概要について教えてください。
サトーは1940年に創業し、今年で85年目を迎える企業です。従業員数は約5,800名、連結売上高は1,500億円弱となっています。近年は海外事業に注力しており、今期は国内と海外の売上がほぼ半々という状況です。
特徴的なのは、お客様と直接コミュニケーションを取ることが多く、日本国内だけでも8万8,000社のお客様がいることです。自社製ラベルプリンターの提供に伴い、営業拠点やサポートセンターを全国に展開しています。
グローバルには26の地域に現地法人があり、代理店ネットワークを含めると90以上の国や地域でビジネスを展開しています。日本が最大の市場ですが、北米、中国、ドイツなども大きな市場となっています。

—「タギング」とは何でしょうか。
当社のビジネスの中核である「タギング」は、モノや人に情報を付与することです。例えば、リンゴそのものには情報がありませんが、バーコードやICタグ、センサーなどを付けることで情報を与えることができます。これをシステムにつなげ、ビッグデータとして活用する。その手前、つまり「ものに情報を与える」部分が当社の得意分野です。
主要な顧客セグメントは、製造業、小売・流通業、食品・外食産業、医療・ヘルスケア、物流の5つです。具体的な例を挙げると、小売店のセルフレジで使用されているICタグ、スーパーの値引きシール、製造業での製品へのシリアルナンバー印字、食品業界でのトレーサビリティシステム、物流業界での送り状やそれを貼り付ける自動印字貼付け機などを手がけています。
なぜ今サーキュラーエコノミーなのか?社会的要請と経営戦略
—サーキュラーエコノミーの取り組みを始めた背景を教えてください。
これまで当社は主に動脈産業のお客様を中心にビジネスを展開してきましたが、今後は静脈産業側にも同等のビジネスチャンスがあるのではないかと考えています。そこで2023年に就任したCEOの小沼が、サーキュラーエコノミーへの取り組みを会社として推進していきたいと考え、トップ自ら旗を振っています。

サーキュラーエコノミーは社会的な要請でもあります。欧州では既に様々な取り組みが進んでおり、日本政府も経済産業省や環境省を中心に推進しています。当社としては、家電や自動車、樹脂、金属、バッテリーなどの分野に注目し、事業開発を進めています。
課題は山積みですが、大きく分けると循環設計、静脈ロジスティクスの最適化、再生資源の品質管理、リサイクル技術の向上などがあります。当社はこれらの課題に対し、タギングや自動認識技術を活用したソリューションの提供を目指しています。
トレーサビリティシステムで静脈産業のデジタル化を支援
—具体的にどのような取り組みをされているのでしょうか。
私たちが特に力を入れているのが、廃棄物の追跡管理システムの開発です。このシステムは従来、手書きのラベルや目視による確認が主流だった廃棄物処理の全工程をデジタル化し、一元管理するものです。
例えば、廃棄物の保管倉庫にカメラを設置し、AIを活用して廃棄物の量を自動で判断します。これにより、回収のタイミングを最適化し、物流の効率化につながります。また、回収された廃棄物には専用のQRコードラベルを貼付し、その後の処理工程や移動をすべて記録します。つまり、ある企業から回収した廃プラスチックが、どのようなプロセスを経て再生材となり、どの企業に出荷されたのかを追跡できるということです。
このシステムを導入することで、これまで情報化が難しく質の担保が難しかった再生材の品質管理や在庫管理が効率化され、静脈産業のデジタル化を実現できると考えています。

— これらの取り組みは、ビジネスとしてどのような可能性を持っているのでしょうか。
私たちのシステムを活用することで、廃棄物処理業から再生資源製造業へと事業転換を図ることにつながります。これにより、より高い付加価値を生み出し、利益率の向上につながる可能性があります。
また、経済産業省も資源循環政策を推進しており、再生資源を製造する企業を育成したいという方向性があります。私たちの取り組みは、こうした国の方針とも合致しています。
実際に、中間処理業者様とのPoC(概念実証)では、リサイクルのオペレーションのルール化や、処理工程の課題の明確化につながりました。これは、廃棄物処理業者が再生資源の供給産業へ移行する促進剤になると考えています。
— 能登半島の復興にも関わられているとお伺いしました。
こちらはビジネスというより社会貢献活動の一環ですが、能登半島地震の被災地で行っている古材のリサイクルプロジェクトでは、一般社団法人のと復耕ラボと連携し、被災して公費解体の対象となった古民家などから解体前に取り出された木材にQRコードを付け、その由来や特性を記録しています。これにより、歴史的価値のある木材を適切に管理し、新たな用途に活用するのはもちろん、その古材が使われていた家屋の歴史や持ち主のストーリー・思いを伝えられることを目指しています。
自社製品のリサイクルから始める循環型ビジネス
—御社自身の製品についても、リサイクルの取り組みをされているそうですね。
はい、当社ではプリンターのリサイクルを10年以上前から行っています。お客様が使い終えたプリンターを下取りし、埼玉県加須市にあるプリンターリサイクルセンターで解体・選別を行っています。

現状では水平リサイクル(プリンターからプリンターへの再生)はまだ実現できていませんが、有価物の売却や廃棄物の適正処理を行っています。今後は、リペレット化などの技術を活用し、より高度なリサイクルを目指しています。
また、インクリボンのリサイクルも行っており、使用済みインクリボンを回収して固形燃料に加工しています。製品の設計段階から循環を考慮することも重要ですが、耐久性や性能との両立が課題となっています。
課題と展望〜静脈産業の変革を支える技術企業として
— 課題や今後の展望について教えてください。
現在、プロトタイプの段階から本格的なシステム開発へと移行しつつあります。来年度中には、より多くの企業に使っていただけるシステムのリリースを目指しています。
課題は多岐にわたりますが、現場に入っていく中で特に感じるのは、リサイクル現場ごとに運用が異なる点です。そのため、各リサイクル事業者とPoC(概念実証)を重ねながら、使いやすさや機能の改善を進めています。
また、現場の方々との協調も重要です。デジタル機器の導入に対する戸惑いはありますが、使っていくうちに在庫管理の効率化などのメリットを実感していただいています。
将来的には、この技術を活用して静脈産業のサプライチェーンを可視化することで、DPP(デジタル製品パスポート)の運用にも貢献できると考えています。
— 最後に、このプロジェクトに携わる中で感じるやりがいについて教えてください。
私は入社して26年になりますが、本業で社会貢献できることが最大のやりがいです。お金をいただいてやっていることが、最終的にお客様のためになり、社会貢献になる。今回のサーキュラーエコノミーの取り組みはまさにそういうものだと感じています。
また、サトーという会社は外から見ると、B2Bでラベルやプリンターを扱う会社という印象が強いかもしれません。しかし、イノベーションを自ら生み出す企業風土を作ることを重視しており、サーキュラーエコノミーはその一環でもあります。社会の動きを最適化するというミッションのもと、サーキュラーエコノミーの分野でもサトーに相談したいと思っていただけるような存在になれればと思っています。
取材を終えて
サーキュラーエコノミーの収益化に苦戦する企業が多い中、サトー社のようなグローバル企業が、トップダウンで事業化に取り組む姿勢に感銘を受けました。
取材を通じて現場を見てきた立場としても、また静脈産業の一員としても、その挑戦には大きな意義を感じています。彼らの強みは現場力にあり、これまで様々な業界で培ってきた課題解決力を活かし、さらなる展開を進めていく可能性があります。
今後のサトーの動向に注目です。
株式会社サトー https://www.sato.co.jp/