年間約4億本もの歯ブラシが消費される日本。毎日のように使うものだからこそ、廃棄となる量も膨大です。そんな中、使い捨て前提の歯ブラシに一石を投じる製品があります。それが、テムコ株式会社が開発・販売するヘッド交換式歯ブラシ「サ・レ・ド ミュー」です。
“ブラシ部分だけを交換し、持ち手は使い続ける”という新しい発想で、ごみの排出量を約1/10に抑えるこの製品。2004年の発売以来、サステナブルな歯ブラシとして静かな支持を得てきました。
今回は、テムコ株式会社 代表取締役・中山淳氏に、開発の背景やこだわり、今後の展望について伺いました。
「もったいない」から生まれた環境に優しい歯ブラシ
—―まずは「サ・レ・ド ミュー」の特徴を教えてください。
「サ・レ・ド ミュー」は、ブラシ部分のみを交換して、ハンドル部分を繰り返し使用することのできる歯ブラシです。ハンドルは共通で、レギュラーとコンパクトの2種類のヘッドを使い分けられます。ヘッド部分のみを交換することで、ごみ排出量を従来の1/10に削減できるメリットがあります。

—― 開発のきっかけと商品名の由来を教えてください。
きっかけは「ハンドル部分はまだ使えるのに捨てるのはもったいない」という想いからでした。自分自身、家族が増えてごみの量が目に見えて増えたことで、歯ブラシ1本の重みを実感したんです。商品名の「サ・レ・ド」は「たかが歯ブラシ、されど歯ブラシ」という気づきから名付け、「ミュー」はリニューアル時に加えた“より良い”という意味のフランス語です。

「使いやすさ」と「エコ」の両立を目指して
—―開発で苦労した点やこだわりはどんな部分ですか?
最も苦労したのは、「誰でも簡単に交換でき、かつ絶対に外れない構造」を実現することでした。試作を重ねた結果、最終的には弊社独自の特許(第4146729号)を取得するに至りました。この構造は、自動車製造用の機械にも応用されており、現在では世界中の工業現場で使用されています。

また、パッケージには再生紙を採用し、焼却時の環境負荷にも配慮しています。替えブラシは6個セットで販売することが多いため、外装箱を保管ケースとして再利用できるよう設計しました。

さらに「サ・レ・ド ミュー」は、使い捨て歯ブラシのごみを減らせるだけでなく、歯ブラシの交換費用を抑えられるというメリットもあります。一般的に歯ブラシは、歯磨きの効果を保つために1か月に1回の交換が理想的とされていますが、「サ・レ・ド ミュー」ならブラシ部分だけを交換すればよいため、経済的な負担が軽く、気軽に新しい歯ブラシに替えることができます。
もともとは「使い捨て歯ブラシのごみを減らしたい」という思いから生まれたこの商品ですが、結果として経済面の負担軽減や歯の健康維持にもつながるという大きな効果をもたらしています。
—―そのような工夫が詰まった製品に対して反響はいかがでしたか?
発売当初(2004年頃)は、残念ながら大きな反響はありませんでした。しかし、2020年頃からは、世の中全体の環境問題への関心の高まりとともに、問い合わせが増えてきました。コンビニ袋の有料化などの動きや、サーキュラーエコノミーへの注目の高まりが背景にあると考えています。
また、2021年のリニューアル以降、替えブラシの販売個数は年間2~4万個から約7万個にまで増えました。セット内容の変更や、交換用ピックをまとめる工夫など、使いやすさと環境配慮の両立を常に意識しています。

ホテルや子ども向けへ、さらなる展開も
—―今後展開したい分野やアイデアはありますか?
はい、大きく2つあります。1つ目は、ホテルのアメニティです。ホテルでは毎日、多くの歯ブラシが廃棄されています。そのため、環境負荷の高い使い捨て歯ブラシに代わって、ヘッド交換式を広めていきたいと考えています。実現できれば、環境へのインパクトも大きいですし、宿泊者に製品を知ってもらうきっかけにもなると思います。
2つ目は、子ども用歯ブラシです。子どもは歯ブラシを噛んでしまったり、力を入れすぎて磨いてしまったりするため、大人に比べて交換頻度が高くなります。そうした点からも、家庭内のごみ削減につながりやすく、非常に相性が良いと感じています。
—―最後にテムコ株式会社として、今後の展望を教えてください。
当社は設立以来、省エネと環境配慮を軸に製品を開発してきました。今後も電気製品に限らず、「人と地球にやさしい」をテーマに、ジャンルにとらわれない商品開発を続けていきたいと思っています。日用品こそ、誰もが気軽に「環境に配慮する選択肢」を持てるようにしたいですね。
取材協力:テムコ株式会社