10月26日から29日まで香港で開催された「エコ・エキスポ・アジア2023」(Eco Expo Asia 2023)。香港貿易発展局(HKTDC)とメッセフランクフルト(HK)の共同主催で、カーボンニュートラルへの飛躍をテーマに13の国と地域から300を超える出展者が集まり、水素エネルギー、グリーン輸送、サーキュラーエコノミー、グリーン建築、グリーン・ファイナンス、ESGなどに関する展示やセッションが行われました。これまで日本では上記のような環境関係の情報はヨーロッパからの発信が多く、アジア地域の存在感は薄かった。しかし香港を中心としたこのエリアは今、カーボンニュートラルの世界標準目標に向けて、多くの投資とビジネスチャンスが生まれ、急速な発展を遂げています。
INDEX
- アジアのサステナビリティ・ハブを目指す「グレーター・ベイエリア」
- 大型パッカー車から自動運転シャトルまで、活況のグリーン輸送ゾーン
- 需要が高まる廃棄物管理(WM)は展示も多数
- 香港の脱炭素化に貢献する商船三井「FSRU」とは
- 「ESG」の言葉が飛び交う会場
アジアのサステナビリティ・ハブを目指す「グレーター・ベイエリア」
エコ・エキスポ・アジアの発信地はGBA(グレーター・ベイエリア / Greater Bay Area)と呼ばれる中国沿岸部。特別行政区である香港、マカオ、そして広東省の9つの自治体(広州、深セン、珠海、佛山、惠州、東莞、中山、江門、肇慶)を合わせたエリアの総称で、総面積は約5万6000km2、総人口は8600万人、GDPは1兆6,688億米ドル(約260兆円)の広域連携経済圏です。サンフランシスコや東京のベイエリアのようなグローバルな湾岸都市地域を目指し、イノベーションやテクノロジー開発のハブとして整備を進めています。
そして今、このエリアはサステナビリティやESGのハブとしての発展に主軸を置いており「エコ・エキスポ・アジア」はその象徴となるイベントと言えるでしょう。
GBAには約300万社の企業がありますが、いずれもESG投資には積極的で、イベント主催の香港貿易発展局(HKTDC)が大華銀行(UOB)と共同で行った調査によれば、約65%の企業が事業運営においてグリーンで持続可能な開発手法を導入、ほぼすべての企業がESGをさまざまなビジネス面に取り入れており、投資額としては、今後2年間で一社平均37万香港ドル(約700万円)を費やす予定であるという結果が発表されました(※1)。
その高い数字に驚きますが、実際に会場にいるとその空気を十分に感じます。たとえば、エキスポのオープニングセレモニーにでは会場に入りきれないほどの人が詰めかけ、ゲストによるスピーチをみな熱心に聴き入っていましたし、壇上にGBAの環境・ESG関連のトップ層が上がると、一斉にスマホを取り出し写真を撮るなど、まるで何かの決起大会のような雰囲気で、日本ではあまり見かけない姿に驚きます。官民一体となったGBAのサステナビリティへの取り組みは勢いがあり、今後の発展が予想される一幕でした。
※1:HKTDC(香港貿易発展局)とUOB(大華銀行)の調査報告書「GBAにおける持続可能性(Sustainability in the GBA)」https://research.hktdc.com/en/article/MTUxMzgzNDAwMw
大型パッカー車から自動運転シャトルまで、活況のグリーン輸送ゾーン
今回の展示の目玉は「グリーン輸送ゾーン」。初日、オープンしてすぐにも関わらず、すでに商談している姿が散見されるなど活況を呈していました。一般乗用車はなく、グリーン燃料を使った廃棄物トラック、コンテナ牽引車、ミニバス、自動運転シャトルなど業務用の車両に特化しています。
気になる燃料ですが、バッテリー電気自動車(BEV)と水素燃料電池電気自動車(FCEV)が中心。特に水素燃料は、エキスポ全体のテーマの一つになるほど重要視されています。
需要が高まる廃棄物管理(WM)は展示も多数
エキスポの入り口近くの一角はWaste Management(廃棄物管理)エリア。人口密度が高く土地が少ない香港では、廃棄物処理はより大きな課題です。特に問題になっているのは建築廃棄物。開発が進むGBAならではの課題で、「グリーン輸送」と同列に「Green Building(グリーンな建物)」というジャンルもあります。
香港の環境工業協会の副主席でJude Chow氏を取材する機会がありました。Chow氏はセミナーやパネルに登壇するなど、香港の廃棄物業界では著名人です。自身の経営するAEL社は学校等の施設内で使える小型バイオガスプラントを開発しています。2階建ての省スペース型で、発電した電気はEVの充電などに利用。副産物は家畜用のプロテイン飼料にできるとのこと。こういったオンサイト型の小型廃棄物処理施設はいま世界のトレンドの一つと言えます。
ごみ分別に関しては、香港ではこれまで分別回収はあまり行われてこなかったため、どうやって分別を啓蒙・促進するかがテーマになっています。その流れを受けて、報酬型のごみステーションがいくつか展示されていました。
これは、分別するとポイントがたまり、それに応じて食品などがもらえるというものです。北欧ではドリンクを買うとディポジットを支払い、回収時にキャッシュバックされる仕組みが確立していますし、日本では分別はだいぶ前から常識化しているため、こういったニーズはありません。国によって分別回収の状況が違うため、促進の方法も違うのは興味深いところです。報酬型ごみステーションについては、後日動画にて紹介します。
香港の脱炭素化に貢献する商船三井「FSRU」とは
日本パビリオンでは、香港商工会議所の会員企業の展示がパネルを中心に行われていました。フロントに飾られていたのは商船三井(MOL)の大きな船の模型。
これは、「FSRU(Floating Storage and Regasification Unit)」と呼ばれるもので、LNG(液化天然ガス)貯蔵と、それを再ガス化する設備を有する船のこと。ガスは液化することで体積が600分の1に圧縮されるため輸送時は液化しますが、輸送先で発電利用するためには再ガス化の工程が必要になります。今回のプロジェクトは、商船三井のFSRUが貯蔵と再ガス化を行い、それを海底パイプラインで香港の二つの火力発電所に送るというものです。それによって香港はCO2排出量の少ないガス火力発電の比率を大幅に増加させることが可能になり、香港政府が掲げる脱炭素化、大気環境改善目標の達成に貢献することができます。
本来なら発電所内に再ガス化施設があるのが理想的ですが、国土の狭い香港では発電所にはその場所がなく、港湾都市でもあるため洋上での再ガス化という方法が最適。さらに陸上で施設を作るとなると5年はかかるところをFSRUであれば2〜3年で建設できてしまうという時間節約のメリットもあるとのことです。
「ESG」の言葉が飛び交う会場
今回の展示会の全体を通じて一番多く聞いた言葉が「ESG」でした。今年ヘルシンキで行われた「WCEF2023」 では、タイトル通り「サーキュラーエコノミー」がメインキーワードで、ESGはさほど話題ではありませんでした。日本の展示会に行くとESGより「脱炭素」をよく耳にします。地球環境を改善しながらビジネスも発展させていくという、向いている方向は同じでも、国によって地勢、政策、国民性、社会課題が違うため、重点ポイントやアプローチが微妙に違ってくることを今回、強く感じたところでした。
前出のHKTDCの調査結果で、今後のESG戦略について、香港人の51%が香港との関連性が今後も高い、または非常に高いと答えています。非香港人の回答では59%と8%高く、国外からの期待がより高いことが示されています。
急速な発展を見せているサステナビリティ・ハブとしての香港。今後はどんな展開になっていくのか、引き続きフォローしていきたいと思います。
(取材・記事:熊坂仁美)
環境と人は、香港貿易発展局(HKTDC)より招待を受け、現地のメディアプログラムに参加しました。執筆・編集は独自に行っています。