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【イベントレポート】大阪・関西万博施設の「その後」〜建築家 永山祐子氏と博覧会協会が考える万博のサーキュラーエコノミー

2025年4月に開幕を控える大阪・関西万博。その持続可能な未来像をテーマに、「ごみのでない万博」の実現に向けた取り組みが進められています。2025年1月30日に東京ミッドタウン・デザインハブで開催された本イベント(第3回)では、万博会場のパビリオンの移設やリユースをめぐる課題と可能性について、建築家・永山祐子氏、博覧会協会の佐々木淳氏、大阪・関西万博EXPO共創プログラムディレクターの齋藤精一氏が議論を交わしました。

万博の「その後」を考える

登壇者(敬称略)
永山祐子 永山祐子建築設計 主宰
佐々木淳 2025年日本国際博覧会協会 持続可能性局 局長代行兼上席審議役
齋藤精一 Panoramatiks 主宰/2025年大阪・関西万博EXPO共創プログラムディレクター

共催:公益社団法人2025年日本国際博覧会協会、公益財団法人日本デザイン振興会
企画・プロデュース:齋藤精一、佐々木実、河村佳祐、森友紀(Panoramatiks)

イベントご登壇者紹介

万博開催に向け、会場内の施設・設備が着々と完成に向かっていますが、注目すべきは「その後」です。多くの万博では、イベント終了後に施設の解体・撤去が課題となります。今回の万博では、建築物や資材の再利用を視野に入れた新たな取り組みが進められています。永山祐子氏が設計を担当した「パナソニックグループパビリオン『ノモの国』」と「ウーマンズ パビリオン in collaboration with Cartier」では、建物のリユースを前提とした設計が進められています。特にウーマンズパビリオンは、前回のドバイ万博で使用された日本館の素材を活用し、新たな形で再構築されました。

「解体された資材をそのままの形で活用することで、サステナブルなメッセージをより強く伝えられる」と永山氏は語ります。

このパビリオンでは、ジェンダー平等と女性のエンパワーメントに関する展示も行われる予定です。特に、女性リーダーの歴史や世界各国のジェンダーギャップ指数の紹介、社会における女性の役割についてのインタラクティブな展示が設けられる予定で、訪れる人々に新たな視点を提供します。

万博の持続可能性とリユースの課題

博覧会協会の佐々木淳氏は、万博後の施設・設備を適切にリユースするためのプラットフォーム「ミャク市」の構築を進めています。これは、建築物や設備を自治体や企業へと再利用可能な形で提供し、循環型社会を実現する試みです。

「万博は一過性のイベントではなく、持続可能な未来に向けた社会実験の場であるべきです。リユースを普及させることで、日本の建築・都市開発に新たな可能性を生み出したい」と佐々木氏は述べました。

しかし、リユースを前提とした建築設計には、解体計画の調整やコスト、行政手続きの課題も伴います。特に、万博終了後の解体期間が短いことで、丁寧な解体作業が難しくなる問題が指摘されました。

「解体期間が短いと、リユースのための丁寧な分解作業が困難になります。この課題を解決しなければ、持続可能な万博の実現は難しいでしょう」と永山氏。

また、解体時の具体的なプロセスとして、建材ごとの再利用計画や、新たな用途への転用方法が議論されています。特に、鉄骨や木材、ガラス素材は別の建築プロジェクトへと活用できる可能性が高いと指摘されました。

未来に活かせる資産へ

万博のリユースを成功させるためには、行政や企業、地域コミュニティとの連携が不可欠です。今回のイベントでは、次のような提言がなされました。

  • 解体プロセスの見直し:リユースの前提となる丁寧な解体を可能にするため、期間や方法の最適化が必要。
  • 企業・自治体との連携強化:サステナブルな価値を持つ施設・設備を、積極的に自治体や企業が活用できる仕組みを整備。
  • リユースの文化を広める:建築業界や一般市民に向けた啓発活動を行い、資材の再利用を当たり前にする。
  • ジェンダー視点の導入:建築のリユースだけでなく、女性が持続可能な社会の実現にどう関われるかを考え、万博の成果を社会に還元する。
  • データベースの構築:リユース可能な資材のデータベースを作成し、資材のマッチングプラットフォームを提供。

「万博の建築を単なる一時的なものではなく、未来に活かせる資産にすることが大切。サーキュラーエコノミーの視点を持ち、より多くの人々にこの取り組みを知ってもらいたい」と齋藤氏は語りました。

持続可能な万博」を実現するために

大阪・関西万博は、サステナビリティを考える大きな実験の場となっています。万博終了後の建築物や設備のリユースがどのように進むのか、今後の動向に注目が集まります。本イベントを通じて見えてきたのは、「持続可能な万博」を実現するための具体的な課題と、その解決策の可能性です。ジェンダー視点を取り入れることで、万博のレガシーがより包括的なものとなり、持続可能な未来に向けた社会の変革に貢献できる可能性があります。さらに、リユースのためのデータベース構築や企業との連携を強化することで、建築資材の再利用をより実践的に進める必要があります。行政と民間の協力が不可欠であり、特に解体時の計画的なマネジメントや資材の適切な管理が求められます。

万博の成功は、単なるイベントの成功にとどまらず、その後の社会や都市開発に与える影響によって測られるべきです。今回の議論を通じて、万博後の都市設計や環境負荷削減の具体的な施策が明確になりつつあります。万博は一過性の催しではなく、持続可能な未来に向けた実践の場として、今後も議論を重ねながら進化していく必要があるでしょう。