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「環境配慮」「美味しさ」「ビジネス優位性」を同時に実現。オランダ発プラントベースラーメン『Men Impossible』創業者の挑戦

動物性食材を使用せず、環境負荷が低いといわれるヴィーガンフード。オランダ・アムステルダムに位置するヴィーガンラーメン店「Men Impossible(メンインポッシブル)」は、そのユニークなコンセプトと卓越した味わいで注目を集めています。

このお店の創業者は、日本人の石田敦士(いしだ あつし)さん。動物性素材を一切使わないプラントベースラーメンを提供することで、「サステナビリティ」を追求しながら、同時に美味しさとビジネスの成功まで実現させた彼の取り組みは、ヨーロッパのヴィーガンフードそしてラーメンシーンに新たな風を吹き込んでいます。

完全予約制・コース料理のスタイルや現地調達へのこだわりなど、独創的な運営方法が特徴の「Men Impossible」。今回は、オランダから一時帰国中の石田さんに、海外で成功を収めているこのヴィーガンレストランについて、Men Impossibleのストーリーについてお伺いしました。

Men Impossible創業者 石田敦士さん(東京・田町にて)

プラントベースラーメン店誕生までの道のり

石田さんは、新卒時から既存のキャリアにとらわれず、NPO活動やコンサルティング業界などでの仕事を通じて多様な経験を積む中で「BtoC分野で人々の日常に寄り添えるビジネスを始めたい」という思いから、社会的な意義と個人の欲望の間で何か新しい価値を創り出すことを模索しました。

そんな中浮かんだのが、「ラーメン」というアイデアでした。一見突飛な発想ではありますが、ラーメンが持つ「シンプルな調理で無限のバリエーションを生み出せる柔軟性」に、石田さんは大きな可能性と魅力を見出したのです。その後すぐに「どうせなら海外で挑戦しよう」とドイツに移住。オランダへの引越しを経て2017年、専門店はほとんどなかったプラントベースラーメンのお店をオープンすることにしたのです。

アムステルダムを選んだ理由について、石田さんは「この街は多文化的であり、食に対する多様性が受け入れられる雰囲気がある」と語ります。最初にオープンした店舗は完全予約制で、ラーメンをコース形式で提供。こうした特異性が話題を呼び、現在ではアムステルダムに直営が2店舗、さらに同じアムステルダムのほか、イギリス、ベルギー、オーストリア、日本などにも系列店を展開しています。

アムステルダムのMen Impossible外観
お店で提供しているプラントベースラーメンの一つ(担々つけ麺)

成長するオランダのヴィーガン市場とその背景

オランダはサステナビリティ先進国として知られています。ヴィーガン市場も年々拡大し、特に都市部ではヴィーガン食品の選択肢が急増しています。2023年の統計によると、ヴィーガン食品の売上は前年比20%増を記録しました。これは、持続可能な食生活を推進する政府の政策や、市民の意識向上によるものです。例えば、スーパーでのペットボトルのリサイクルや、地産地消を促進する制度がその一例です。

さらに、世界的なヴィーガン食品市場の成長も背景にあります。2024年にはヴィーガン食品市場の世界規模が383億米ドルに達し、2033年末には1,059億米ドルを超えると予測されています。このようなトレンドは、環境意識が高く、健康志向の消費者が多いオランダ市場にも波及しているといえます。

アムステルダムでは特に、観光客による需要も高まっています。石田さんの店舗にも世界中から旅行者が訪れ、「美味しいものを食べたい」という純粋な動機がヴィーガン食品への関心を自然に高めています。

「ヴィーガンは単なるディスクリプション(説明)に過ぎず、本質は美味しさにある」と石田さんは強調します。味へのこだわりを持ちながら、ヴィーガンという選択肢を提供する姿勢が、オランダでの成功を支えているのです。

環境に配慮しながら美味しさも追求

石田さんのプラントベースラーメンには、肉・魚だけでなく卵や乳製品も含む動物性の素材を一切使用していませんが、これにより環境負荷を大幅に軽減することが可能です。また、予約制の営業により食品ロスを削減したり、食材を無駄なく活用することで不要な廃棄物を出さないようにしたりするなどの結果、大きなコスト削減にもつながっています。

環境面での取り組みとしては、地元の食材調達やエネルギー効率の良い運営システムがあります。石田さんは「近くから材料を仕入れる方が経済的にも合理的」と語ります。この地産地消の考え方が、結果として環境への配慮に繋がっています。また、再利用可能なお箸を提供し、廃棄物の削減にも取り組んでいます。

味覚面でも石田さんは妥協しません。欧米人の好みに合う濃い味付けを研究し「ヴィーガンとは思えない美味しさ」を実現しています。この点について石田さんは「我々はヴィーガンを対象にしているわけではなく、誰もが美味しいと思えるラーメンを作っていきたい」と話します。「ヴィーガンではなく、肉を食べる我々マジョリティの人たちが喜んで来てくれるプラントベースのラーメンや店を作って初めて、世界で生産・消費される肉が減るから」です。

アムステルダムのMen Impossible店内

「ヴィーガン文化」を日本に

今後、石田さんは日本市場での展開を目指しています。日本ではプラントベースフードがまだ発展途上にあり、ラーメンもまだまだ一般的ではありません。しかし、インバウンド需要の増加により、海外からの観光客が日本でもヴィーガンオプションを求めるようになると予想されます。「日本でもすでに多くの先輩方が挑戦されていますが、我々は逆輸入組として新しい発想を提示したいと、今はパートナー企業さんを探しています。もしご興味をお持ちいただけそうな会社さんをご存知でしたら、ぜひご紹介ください(笑)」と語ります。

石田さんの目標は、単に店舗を拡大することではありません。「サステナブルな未来を楽しむためのモデルを示したい」と話します。プラントベースフードが「儲かるビジネス」にもなりうると証明することで、他の企業や個人にも持続可能なビジネスモデルを推進するインスピレーションを提供したいと考えています。

また、石田さんは「サステナブルと美味しさは両立できる」というメッセージを、食を通じて世界に伝えたいと考えています。ヴィーガンラーメンが持つ可能性を最大限に引き出し、多様な人々が楽しめる料理として普及させることが彼の使命です。

石田さんの挑戦は、単なるラーメン店の成功にとどまらず、ヴィーガン市場全体の未来を切り拓く先駆けとなっています。地球規模での環境問題や食品ロスに取り組むだけでなく、「美味しい」という喜びを通じて、ヴィーガンを持続可能かつ収益性の高いビジネスモデルとして確立する可能性を示しています。

お店のSNSアカウント:https://www.instagram.com/menimpossible/

参考:https://www.surveyreports.jp/industry-analysis/vegan-food-market/1037590?utm_source=chatgpt.com