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台湾で50年以上のあいだガラスの回収事業を行う春池ガラス(春池玻璃) は、廃棄ガラスの回収から、リサイクル、デザイナーとのコラボレーションによるプロダクトの製造まで行っている企業です。
2023年9月、日本で初めて春池ガラスの作品を揃えたポップアップイベント「透明◯PACHINKO」(9/1〜9/17)が行われ、その初日では春池ガラス副社長の呉 庭安(ご・ていあん)さんとゲストによるトークイベントが行われました。

今回は春池ガラスのご紹介とともに、初日に行われたトークイベントのレポートから日本と台湾におけるガラスのリサイクル、製造業全体の違いについてご紹介します。

春池ガラスについて

台湾を拠点として活躍する春池ガラス(Spring pool glass)は、台湾全土の廃棄ガラスのおよそ7割にあたる15万トン/年を回収し、さらに新進気鋭のクリエイターとのコラボレーションによって新たなプロダクトの設計・製造までを手がける企業です。
台湾におけるサーキュラーエコノミーの先駆者として活動してきた春池ガラスは、最近では「W Glass Project」という新たなプロジェクトもスタート。主に台湾のデザイナーや著名な建築家とのコラボレーションを通して、様々な商品はもちろん、アート、インスタレーション、建築リノベーションなど多様な展開でガラスの持つ新しい可能性を追求しています。
呉さんは今回のイベントを皮切りに、日本のクリエイターとの連携も視野に入れているそうです。

透明◯PACHINKOとは

「透明○PACHINKO」の空間構成は、来場者自身がパチンコ玉のように会場内をランダムに行き来し、設置されている春池ガラスのさまざまなプロダクトに触れることを狙いとしています。

なお展示会場となっているSHIBAURA HOUSEは、建築家・妹島和世氏が設計した全面ガラス張りの建物。地域の人たちや海外からのゲストが日常的に交流しているコミュニティスペースです。今回は春池ガラスとSHIBAURA HOUSEが協働し、両者の共通項ともいえる「ガラス」の特性を最大限に活かした展示空間を目指しています。

会場には商品のほか、主に台湾の若手アーティストたちによるガラス作品が展示され、時間によってガラス張りの建物に差し込む自然光でさまざまな表情を見せてくれました。

春池ガラスのこれまで

トークイベントの様子

呉:春池ガラスは、台湾のガラス産業を手掛けて丁度50年を迎えますが、知名度が広がったのはつい最近のことです。それは今回の展示のようなガラスを使ったアートプロジェクトによるところが大きく、デザイン性があってファッショナブルということで皆さんの注目を浴びるようになってきたと言えます。
しかし本業のガラスのリサイクル事業は決して派手ではなく、本当に大変な仕事です。そんなレガシーな産業とも言える祖業から、なぜ今のような多様な展開に至ったのか。それは根底に「ガラスを介してより環境・社会に良い循環を生み出したい」というミッションがあるからです。
この50年において春池はいくつかの転換期を迎えましたが、そのフェーズは大きく4つに分けられます。まず1つはずっと続けている回収事業。そして、回収したガラスを材料として提供する事業が2つ目。3つ目が技術とデザインによってリプロデュースしたガラス製品づくり。そして4つ目は、再生したガラスを再び経済の循環の輪に落とし込むことです。
日本ではこの循環を一つの会社がオールマイティーに手掛ける事はあまりないかもしれませんね。なぜならば、僕が知る限り日本は徹底した分業制度の国だからです。廃棄物を回収する会社、素材を再生する会社、再生素材で製品を作るメーカー、それを販売する会社と分かれているのが普通だと思います。しかし台湾においてはそうではありません。これらすべてを弊社が行っています。
春池が最も強みとしているのは回収・リサイクルの技術の高さです。しかしながら、原材料をリサイクルしてまた材料として提供するのは、残念なことに利益率が低いと言わざるを得ません。そのため、台湾全土から回収したガラスにどのような付加価値をつけるのか、イノベーティブに発信できるのかが重要なのです。

リサイクル会社が空間設計までを考える理由

来場者へ作品の解説を行う呉副社長(左)

空間デザインを考える上で重要なのはやはり持続可能性で、その空間が提供する価値を社会面・環境面に繋げていくことが必要だと思っています。光栄なことに、こうしたコンセプトが台湾のデザイン界でも高い評価を得ており、台湾の産業のレベルアップに貢献すると評価され、2018年の総統イノベーション賞や、2021年の台湾のデザイン賞の最高賞に選ばれました。
今回のようなポップアップイベントのみならず、「新竹春室 Glass Studio + The POOL」という工房兼ショップ兼ギャラリーカフェを我々は持っていますが、これは視覚のみならず体験型、例えば飲食であったりとか、ガラス素材に触れることができるワークショップであったりとか、五感に訴える空間として、ガラスの魅力と出会う機会を提供しています。

台湾のガラスサイクルについて

―台湾のガラスの7割をリサイクルされているということですが、詳しく教えてください。

7割というのは重量ベースで計算されています。順を追って説明すると、ガラス製品は主に3種類に分けられます。1つ目はビン、2つ目は窓ガラス、3つ目は家具製品です。他にも細かい種類があるんですが、春池が回収してアップサイクルしているガラスは主にこの3つがリソースになっています。

―その3種の合計の7割ということですね。例えば、ビンが窓ガラスになったりもするのでしょうか。

置換率はそれぞれ違えど、基本的にビンならばビンとして再生されますし、窓ガラスならば窓ガラスに戻すのが最適です。ですが複数種のガラスが一緒くたになっている場合もあるので、その場合は自社で仕分けをする必要があります。

―その3つの区分は混ぜられるのでしょうか。

できるんですが、ガラス成分の比率や配合が違うので手間がかかります。なので本来の用途に戻すほうが効率が良いし、出来上がる品質もよくなります。

―台湾のバージンガラスはリサイクルガラスに対してどのくらいの量ですか?

台湾全体のガラスのリサイクル率はすごく高い数字を誇っているんですが、他社のガラスメーカーさんの再生ガラスの比率でいうと恐らく30〜50%ではないかと思います。

春池の製品の場合は必ずリサイクルガラスを使っています。とはいえ商品によって使用割合が違っていて、30〜100%までまちまちです。これは回収ガラスの品質によります。なので、春池ガラスも含めた台湾全体で言えば30〜70%はアップサイクルで、残りはバージンのガラスというふうに僕は把握しています。

日本と台湾のリサイクルの違い

―日本ではビンは高い割合でリユース・リサイクルされているのに対し、建材系のガラスはそうでないと聞いています。その違いについてはどう思われますか。

僕が知る限り、日本のビンや缶の回収率はものすごく高いですし、建材の再利用率も高い数字だと存じています。そうですね…日本と台湾との違いでいえば、日本は使う側の要求水準がだいぶ高いなと思っています。

―使う側としては、再生ガラスとバージンのガラスで品質が違えばよりよい方を選びたくなります。実際のところ、ガラスは繰り返し再生すると劣化するのでしょうか。

よくぞ聞いてくれました!そこがプラスチックとの大きな違いです。ガラスはどんなにリサイクルしても品質が落ちないんです。リサイクル技術さえ担保できれば、素材そのものは何回再生しても劣化することがない。マテリアル(素材)という面で見ると、無限に再使用できる、とても魅力的な素材だと思います。

―基本的にリサイクルされたものは安いという先入観がある気がします。

そうですね。リサイクルガラスには、製造時の燃料消費を減らすメリットがありますが、ただの原料として捉えるとガラス自体の原料であるシリカ繊維との価格競争になるので、安くせざるを得ません。

だからこそ、アート作品として、そしてインスタレーションや展覧会をキュレーションすることによって付加価値を上げていく必要があるんです。春池の今の展開には、経済的な理由から「そうせざるを得ない」という背景があります。

―品質は同じでも「リサイクルだから」というラベルのせいで安くされてしまっていて、だからこそクリエイターによる付加価値が必要で、アート的な展示をしている…ってことなんですね。

おっしゃる通り、決して「再生ガラスは品質が悪いからアート的な展開で付加価値をつけなきゃいけない」というわけではありません。最も重要なのは、いかにガラスの可能性を切り拓き新しい価値を創造するかだと思うのです。

サイエンス、空間建築、アート的発信といった多様なアプローチによって、ガラスという素材が持ついろんな可能性を皆さんが理解できる形で提示するのが重要だと思うんです。そのための春池の挑戦的な試みは、世界的に稀かもしれませんね。

それとまた日台の違いに戻りますが、日本のガラス再生事業に特徴があるとするならば、それは回収ガラスをまた同じ用途に再利用する大まかな決まった商業ルートがあることです。

一方で私たち台湾では、元の素材の用途と違う新しい試み、例えば気泡が入ってしまって不良品扱いの廃棄ガラスを、あえて気泡を生かしたデザインの食器に創り変えたりとか、そういう新しい展開をしていこうっていう挑戦的な姿勢が特徴的で、そこが日本と台湾の違いじゃないかと感じます。