金属の中で圧倒的なリサイクル率の高さを誇る鉄。ですが、実際どのような方法で作られ、どのようにリサイクルされているかはあまり知られていないのではないでしょうか。
鉄鋼を生産する方法には、鉄鉱石と石炭(コークス)を原料に高炉(溶鉱炉)で銑鉄をつくる高炉法と、電気によって原料の鉄スクラップを熱して溶かす電炉法があります。
今回は、電炉による超高温完全溶解処理を利用した資源リサイクル事業に取り組むJFE条鋼株式会社 佐々木雅孝さんに、電炉による廃棄物リサイクルの仕組みやこれからの課題について伺いました。
※旧サイト(環境と人)からの転載記事です。
電炉を用いた鉄鋼製品づくり
ー早速ですが、御社の企業理念である「人と地球に優しい鉄づくり」とは、具体的にどのようなものなのでしょうか?
事業内容は普通鋼鋼材の製造販売です。電気炉(以降電炉)を用いて鉄スクラップを溶解し、新たな鉄鋼製品として再生産する「鉄のリサイクル事業」を行っています。いわゆるサーキュラーエコノミーですね。
そのリサイクル技術を活かして、廃棄物の再資源化を行おうという金属系の総合リサイクル企業を目指しています。
ー電炉の特徴はどのような点なのでしょうか?
鉄鋼製品が作られる炉は「高炉」と「電炉」に大別されます。鋼板やパイプなどは主に高炉で作られていますが、それ以外の条鋼(形状が平らでないH鋼や鉄筋棒鋼など)と呼ばれるものは主に電炉で作られています。
高炉と電炉の大きな違いは、原料と製造プロセスです。
⾼炉では、鉄鉱⽯と⽯炭(コークス)を原料に銑鉄をつくり、さらに転炉で精錬、成分を調整して鋼を⽣産します。
一方電炉の原料は鉄スクラップです。鉄スクラップを電気(電極)によって溶解し、成分を調整しながら粗鋼(鋼材に加工される前の鋼(ハガネ))を⽣産します。
ー電気で溶かすということは、CO₂の排出量にも違いがありますか?
はい。電炉は高炉の約1/3の消費エネルギー、約1/4のCO2排出量で鉄鋼を製造することができます。
鉄鉱石から鋼をつくる高炉と比べ、鉄スクラップを再利用する電炉の方が少ない製造プロセスで済むので、エネルギーもCO₂排出量も抑えられます。環境に優しい製鋼法ですね。
ただ、大量の電気を消費するため現状の化石燃料による発電メインだと、間接的にCO2を出すことになりますが、電力会社が非化石燃料に切り替えていくことで必然的に減るでしょう。
ー粗鋼生産量における電炉の割合はどのくらいですか?
全体の75%が高炉、25%が電炉です。
ー世界で見るとこの割合はどうですか?
低いですね。日本では高炉で作られる鋼板なども、他の国では電炉で作られています。
ー日本で電炉の比率が低い理由はどこにあるのでしょうか?
日本には鉄スクラップが大量にあるにも関わらず、電炉の原料であるスクラップ資源を輸出してしまっているという背景があります。そこには、日本の特色である品質重視のものづくり文化も少なからず影響していると思います。
最先端の技術を利用した廃棄物リサイクルへの挑戦
ー廃棄物リサイクルについてお聞きしたいのですが。
当社は廃棄物を、鉄スクラップと共に資源として活用しています。製鋼原料として有価と評価できないものは、再資源化するのにそれなりのコストがかかりますので、排出事業者さんにその点をご理解いただき、産廃処理としてリサイクルします。リサイクル可能なものを安易に埋立処分してしまう現状はいかがなものか?と考えるからです。
ーなるほど。廃棄物を鉄スクラップと一緒に溶かして再資源化するということですか?
そうです。電炉の中は1,600度以上になるので一瞬で溶解・無害化することができます。
残渣が発生しませんし、熱エネルギーを回収・利用するサーマルリサイクルも実現できるという理想的な資源リサイクルです。
ー残渣が発生しないんですか?
はい。可燃ごみなどを燃やす一般的な焼却炉はだいたい1,000度程度なので、燃え切らない金属や飛灰などの残渣が出ます。通常、これらは活用が難しく埋立場行きとなりますが、電炉はそれが発生しないというのが最大の特徴です。
プラスチックなどの可燃物は炉の熱源に、ダスト※は亜鉛地金にしてマテリアルリサイクル、スラグ(電炉の上に浮く不純物)は破砕して路盤材に使うので、ほぼ100%リサイクルできます。
※ダスト=蒸発した煙に含まれる、粉のように細かく気体中に浮遊する塵状の固体の粒子。粉塵。電炉において廃棄物を鉄スクラップと一緒に溶かす溶解処理では、ダストに亜鉛が含まれている。
【電気炉での超高温完全溶解処理】
電気炉内で全てを完全溶解。
溶鋼は鉄鋼製品、スラグは路盤材、ダストは亜鉛精錬原料等へ有効活用されます。
電炉では以下の2種類のリサイクルを実現しています。
・金属成分(Fe, Mn, etc.)の完全マテリアルリサイクル
・エネルギー原料の高効率サーマルリサイクル
ー廃棄物のリサイクルに力を入れ始めたきっかけはどのようなことですか?
2017年ごろから力を入れ始めたんですが、そのころは鉄の需要が右肩下がりで電炉の稼働率が下がってきていたんです。
何か新しい事業をということで、もともと廃棄物処理の許可を持っていたのでそちらにも力を入れてみようと考えました。
ーなるほど。もともとスクラップに使っていた設備をそのまま利用しているのですか?
そうです。炉の直径が6メートルくらいあるのでスプリングマットレスもそのまま入れられます。
破砕や解体、分別などの事前処理が不要で、埋立に伴う二次マニフェストも不要ですし、ワンストップで行えるのが強みです。
ー不純物が多い廃棄物は、製品の品質には影響ないのでしょうか?
廃棄物の組成を事前に調査したうえで、鉄鋼製品の品質に影響が出ないようインプット量を調整します。
電炉の特性を活かした使用済み乾電池の再資源化
ー受け入れている廃棄物とは具体的にどのような物ですか?
廃乾電池やスプリングマットレス、トナーカートリッジ、タイヤのビード部などです。
ただ廃棄物であれば何でもいいというわけではなく、鉄鋼事業の延長線というのがキーワードです。つまり、鉄が含まれる廃棄物ということですね。
タイヤのビード部にも鉄が入っているんですよ。ビードワイヤーという高炭素鋼を束ねた構造になっているので。
あとは本当に処理が困難なもの。焼却炉で燃えない陶磁器くずや、焼却しづらいグラスウールなどもやっています。
ー一番多いのは何でしょうか?
乾電池です。うちで扱っている廃棄物のうち半分ぐらいが乾電池ですね。
乾電池には鉄が20%、あとは亜鉛やマンガンなどが含まれています。鉄鉱石も亜鉛鉱石もマンガン鉱石も輸入されたものですが、それを国内資源としてリサイクルできるということです。
ー初歩的な質問なのですが、乾電池をそのまま電炉に入れるということは鉄以外の成分も混ざって出てくるということですか?
そうです。電炉で作る製品は混ざっているのが前提です。亜鉛は蒸発しますが、マンガンは混ざって出てきます。
ー成分的に問題はないのでしょうか?
もともとマンガンは溶かした後に成分調整で添加するものなんです。鋼を粘り強くする効果があるので。
ーそうなんですね!高炉でのスチール製品と電炉で作られた製品の違いはその辺にあるのでしょうか?
はい。電炉で作られるものには不純物が多いので加工に向きません。一方高炉で作られるものには不純物が少ないので加工しやすいという特徴があります。
大きな課題は原料の確保
ー電炉は24時間稼働しているんですか?
電気代の安い夜と土日に稼働させています。
ー大量に電気を使うとなると電気代も高額になるのでそういった対策は必要ですよね。
では、これから電炉の位置付けはどうなっていくと思われますか?
高炉はCO₂をたくさん出すので、いかに電炉で操業するかが鍵になると思います。そのためには鉄スクラップの確保も重要な課題になります。
日本は鉄スクラップの発生量は多いんですが、輸出する量も多い。それをどうやって国内で使うかという問題があります。
ー廃棄物で何か目を付けているものがありますか?
コーヒーやお茶が入っている、中がアルミになったパックに注目しています。日光に当たらないようにするという機能を持たせているのでアルミ比率が高く、焼却炉に入れるとアルミが残渣として出るんです。
こういった、焼却炉で燃やせないものや困っているものはないかといったヒアリングも重要ですね。
ーなるほど。そういうパックのような、分別が難しいものって意外と多い気がします。
あとはリチウムイオンバッテリーやソーラーパネル。
ソーラーパネルは8割以上がガラスなので本来はガラスにリサイクルするのが理想ですが、処理が困難なのであれば一つの方法として電炉でのリサイクルもありなんじゃないかと。
処理困難物もリサイクルできる。そこに電炉の良さ、存在価値があるだろうと思っています。
我々も2017年から本格的に始めたばかりなので、逆にこんなものはどうかと提案していただけたらありがたいです。
そのためにはメディアなどを利用した宣伝も必要だと思っているんです。電炉のリサイクル自体知られていないので。
ー確かにそうかもしれません。電炉のリサイクルがもっと幅広く認知されれば、可能性は広がるような気がします!我々も何か思い付いたら提案させてもらいますね!
本日は貴重なお話をありがとうございました。
取材日:2022/09/07
JFE条鋼株式会社
https://www.jfe-bs.co.jp/