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GX(グリーン・トランスフォーメーション)推進法が、2023年5月12日、衆院本会議において賛成多数で可決、成立し、6月30日より施行されています。法律の正式名称は「脱炭素成長型経済構造への円滑な移行の推進に関する法律」ですが、通称「GX推進法」が広く使われています。
政府の今後10年間の温暖化対策の基盤になる重要な法律です。

どんな内容なのでしょうか?

政府は2023年2月、GXのための政策パッケージ「GX実現に向けた基本方針」を閣議決定し、その実行に必要な制度を定めるために通常国会に提出したのが、GX推進法案でした。
GX推進法案は同年3月に衆院を通過しましたが、参院で修正。脱炭素社会への移行にあたり、産業に多大な影響が出ないように「公正な移行」という文言が加えられました。

※旧サイト(環境と人)からの転載記事です。

GXとは?

そもそもGX(グリーン・トランスフォーメーション)とは、「GX実現に向けた基本方針~今後10年を見据えたロードマップ~」で述べられているように、「産業革命以来の化石エネルギー中心の産業構造・社会構造をクリーンエネルギー中心へ転換する」ことで、戦後における産業・エネルギー政策の大転換を意味しています。

GX推進法は、脱炭素社会の実現を「経済成長の原動力」と位置づけています。
そして、そのための投資が進むように、まず公的な債権によるファイナンスを行い、その償還の原資を、将来の温室効果ガス(主に二酸化炭素)排出に価格づけをする「カーボンプライシング制度」導入でまかなうといった内容です。

「GX経済移行債」の発行

GX推進法の柱となるのは、企業の脱炭素化投資を後押しするため、新たな国債「GX経済移行債」を、2023年度から10年間で20兆円規模発行することです。

発行金額についてGX推進法に明記はありませんが、政府は、二酸化炭素の排出量を2050年に実質ゼロにする「カーボンニュートラル」を達成するには、今後10年間で官民合わせて150兆円超の投資が必要だとしています。

この債権の発行を通じて確保した資金は、長期間にわたり、次世代燃料の水素やアンモニアの供給網整備や蓄電池の製造支援、省エネ推進、再生可能エネルギーや原子力等の非化石エネルギーへの転換、資源循環・炭素固定技術の研究開発への投資などに充てられます。

「カーボンプライシング制度」の導入

こうした移行債の償還財源として、二酸化炭素など温室効果ガスの排出量をお金に換算して企業に負担させる「カーボンプライシング制度」を導入します。

2028年度以降、化石燃料を輸入する石油元売り会社や商社などから、二酸化炭素の排出量に応じて「化石燃料賦課金」を徴収。
賦課金の金額について明記はありませんが、一定時点の石油石炭税及び再エネ特措法納付金の総額を超えない範囲で、政令で定められるとしています。

2033年度からは、火力発電所を運転する電力会社に、政府が有償で二酸化炭素の排出枠(量)を割り当てる制度もスタートさせます。有償枠については、その量に応じた「特定事業者負担金」を徴収します。
負担金の金額は、有償枠の量に、入札により決定される二酸化炭素排出量1トンあたりの負担額を乗じて決定されます。

GX基本方針によれば、化石燃料賦課金も特定事業者負担金も、初めは低い負担で導入し、徐々に引き上げていくとしています。
将来の負担のあり方をあらかじめ示すことにより、GX投資の前倒しを促し、企業がGXに集中的に取り組む期間を設けるという狙いがあるようです。

また、この賦課金の徴収や排出枠取引制度の運営などのために、新しく「GX推進機構」を設立します。

GX推進法の評価と課題

「エネルギー政策を掌理する経産省の反対で長年実現できなかったカーボンプライシングという政策が、正面に位置付けられたことは評価できる」と、東大先端科学技術研究センターの小林光顧問(元環境事務次官)は、総論として評価しています。

しかし、課題もありそうです。

有効な政策であるカーボンプライシングですが、GX推進法での設計には課題があり、「効果を十分に発揮できるか、適切とは言い難い」と、小林氏。
GX推進法の下では、制度の導入は早くても2028年度から。これでは「2030年度に温室効果ガス46%削減(2013年度比)」という政府の目標に間に合うのか、疑問です。

また、排出枠取引制度について、2033年度まで企業の自主性に任せている点も気になります。制度に参加するか、目標は何かなど、企業が自由に決めることができて、罰則はありません。実効性は担保されるのでしょうか?

市民団体のWWF(世界自然保護基金)などは、GX推進法による炭素価格(排出量1トン当たりで負担を求める金額)が非常に低く抑えられていると、指摘しています。

国際社会では、先進国において2030年に1トン当たり130ドルが必要とされています。ところが、GX推進法の炭素価格には上限が設けられているため、これに遠く及ばないとみられます。

2023年2月に排出枠価格が一時100ユーロを突破したEUは、カーボンプライシングが十分に実施されていない国・地域からの輸入に関税を課す「炭素国境調整措置(CBAM)」の導入を予定しています。

暫定合意では、2023年10月1日から2025年末までが経過措置期間、2026年より段階的導入期間、そして2032年に完全適用となると見込まれています。
このままでは、日本の産業競争力が損なわれるかもしれません。国際的な水準と整合した炭素価格になるよう、制度設計を再考する必要がありそうです。

さらに、小林氏は、「今回の法律で手を加えずに置かれたエネルギー税制についても、炭素含有量に基づいて課税する税制のグリーン化を行い、カーボンプライシングを強化すべき」と提言しています。そうすれば、国民負担を増やすことなく、二酸化炭素排出量を1割程度減らせる可能性が高いと言います。

とはいえ、カーボンプライシングは脱炭素を行う中での最終手段であることには間違いありません。企業の事業そのものがどれだけグリーン化され、国民負担を本当の意味で減らせるか、努力のし甲斐がある点です。

GX脱炭素電源法も成立

GX推進法の施行で、まだ課題があるにせよ、国内のGX投資が今後より活発化すると予想されます。

2023年5月31日には、脱炭素社会の実現に向けた電気供給体制の確立を図るための電気事業法等の一部を改正する法律(GX脱炭素電源法)が成立しました。

GXの実行に必要な施策は多岐にわたります。今後も多くの法令や制度改正があるでしょうから、動向を注視していきたいものです。

参考文献

GX 実現に向けた基本方針 ~今後 10 年を見据えたロードマップ~
脱炭素移行に向けた環境省の取組
カーボンプライシング | 地球環境・国際環境協力 | 環境省
産業経済政策ではない地球温暖化防止の法体系確立を
GX関連法に残る問題点と必要な改善策
Net Zero by 2050 - A Roadmap for the Global Energy Sector