専門用語集

「デ・グロース(脱成長)」とは

デ・グロース(脱成長)とは、経済成長を追求する従来のモデルを見直し、社会的幸福や環境の持続可能性を優先する新たな価値観や経済アプローチを指します。

デ・グロースの概念は、経済成長がもたらす環境破壊や社会的不平等といった問題への批判から生まれました。20世紀半ば以降、多くの国々はGDPの拡大を政策目標とし、それが豊かさの指標とされてきました。しかし、経済成長には大量の資源消費とエネルギー使用が伴い、気候変動や生物多様性の喪失など深刻な環境問題を引き起こしています。また、経済成長が必ずしもすべての人々の生活向上につながらず、富の集中や社会的不平等が拡大する事例も少なくありません。こうした背景から、デ・グロースは「成長しないこと」を単なる経済停滞ではなく、質の高い生活と持続可能な社会を目指すための選択肢として位置づけています。

デ・グロースの目的は、持続可能な地球環境の保全と、社会全体の幸福度を向上させることにあります。

具体的には、デ・グロースは「より少なく、より良く」をキーワードに、物質的消費の抑制や資源の節約を通じて、自然環境への負荷を削減することを目指します。例えば、消費社会を見直し、必要以上の製品購入を避けるライフスタイルの推奨や、地域経済を重視した持続可能な生産・消費モデルの構築などが挙げられます。また、労働時間の短縮や共助を重視した社会システムの導入により、個々人がより充実した時間を持てる社会を構築することも目指しています。デ・グロースの実践は、一部の先進国や地域で具体化しており、例えば都市部での共有経済や農村部での地域通貨の活用といった取り組みがその一例です。

デ・グロースは、従来の「成長か停滞か」という二項対立を超える、循環型経済の実現に向けた新たなアプローチでもあります。

サーキュラーエコノミーがリソースの効率的な利用や廃棄物の最小化を重視するのに対し、デ・グロースはそもそもの経済規模や成長の必要性を問い直します。リニアエコノミーが大量生産・大量消費を基盤とするのに対し、デ・グロースのビジョンは、社会の幸福を経済指標以外の基準で測る新しい枠組みの構築です。これには、再生可能エネルギーの活用、地域コミュニティの強化、物質的消費を減らした文化的価値の再評価などが含まれます。その実現には、個々人の意識改革に加え、政策的な転換や企業の役割の再定義も不可欠です。

デ・グロースは、単なる経済の縮小ではなく、環境負荷の削減と社会的公正の実現を両立させるための一つの道筋を示しています。この考え方は、経済成長を追い求める社会において真の持続可能性を実現するための重要な視座を提供していると言えるでしょう。